クールな外科医のイジワルな溺愛
妄想しながら歩きスマホをしていると、ドンと誰かにぶつかってしまった。自分がぶつかったくせに驚いて、スマホを落としてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
今のは完全に私が悪かった。怖い人だったらどうしよう……。
深く頭を下げると、どこかで見覚えのある革靴が視界に入る。ハッと顔を上げると、息が止まりそうになった。
「……海外逃亡。人殺しでもしたの? 花穂」
落としたスマホを拾ってくれたその人が上体を起こす。画面を見ながら眉をひそめたのは、まぎれもなく黎さんだった。
「ど、ど、ど、どうして」
突然すぎる黎さんの登場に驚愕するあまり、言葉が詰まってしまう。
「どうしては、俺のセリフだよ」
スマホを私に返しながら、黎さんが言う。その顔は、やんちゃ少年を叱る母親のようだった。怒っているように見えるけど、どこかに慈悲深さを感じる。
言われた通りだ。『どうして』じゃない。黎さんが急に私がいなくなったことを不審に思い、会社が終わるのを待っていたのは明白だった。仕事が忙しい黎さんの、ちょうど空いた時間が今だったんだろう。
おずおずと手を伸ばし、スマホを受け取る。その瞬間、ぎゅっとスマホごと手をつかまれた。
「つかまえた。さあ、説明してもらおう」
「あの、放してください」
「ほう、抵抗するか。まだ会社に近いから同僚に見られるかもしれないなあ……それでいいのかなあ……」