クールな外科医のイジワルな溺愛
「そのひと……」
体中の震えが止まらない。何もできずに立ち尽くしている私を見上げる黎さんに、ぽつりと告げた。
「そのひと、私の母親です」
黎さんは驚いたように目を見開く。けれど次の瞬間にはドクターの顔に戻っていた。
「大丈夫ですか。お母さん、しっかりしてください。もうすぐ救急車が来ますから」
かろうじて息をしているような母は、黎さんの腕の中でまぶたを閉じている。
「花穂、バッグの中身確認して」
そう指示されて、母が持っていた安物の小さなトートバッグを探る。中に入っていた小汚いお財布の中に、数枚のカードが。ほとんどが期限の切れているポイントカードだったけど、その中に保険証と診察券があった。
「国立国府大学付属病院」
その診察券に印刷されていたのは、偶然にも黎さんの勤務する病院の名前だった。そこはお父さんが亡くなった場所でもあった。