クールな外科医のイジワルな溺愛
同意書にサインを
救急車が到着し、付き添いは一人までと言われたけど、黎さんが『自分自身ドクターで処置の手伝いができる。邪魔にならないからこの人も乗せてくれ』と頼んでくれたので、なんとか一緒に病院に着くことができた。
彼の口添えのおかげで国府大学付属病院に受け入れが決まり、救急車は赤信号で停まる車の列を追い越して目的地を目指す。
母は血圧と体温を救急隊員に計られ、黎さんが喉に溜まっているであろう血液と痰をチューブを入れて吸引する。
「血圧が低いですね」
救急隊員が血圧計を見て顔をしかめる。
「花穂、お母さんの既往症は?」
既往症って。黎さんの質問に答えられるはずもない。
「二十年近く離れて暮らしていたし、最近まで会ったこともなかったからわかりません」
首を横に振ると、救急隊員はあからさまに困ったような顔をした。黎さんは冷静な表情を崩さず、母を見つめていた。
「お母さん、どこが痛いですか?」
母は胸や肩を大きく動かし、なんとか呼吸をしているような状態。質問に答えられそうな気配はない。
「仕方ない。酸素二リットル。病院にカルテがあるかの確認と、輸血の準備をするように連絡をお願いします」
「はい」
顔に酸素マスクを着けられる母。その様子を見ていると、終末期のお父さんを思い出した。