クールな外科医のイジワルな溺愛
「……お母さん……」
おそるおそる、血で汚れた母の手を取る。
母は本当に私にお金を借りにきたんだろうか。本当は違うんじゃないだろうか。倒れる前の表情を思い出すと、胸が苦しくなった。
病気で自分の命が長くないと悟ったから、最後に実の娘の顔を見ておこうと思っただけなの?
「ごめんね」
こんなことなら、ちゃんと話を聞いてあげればよかった。あんな風に突っぱねなければ。
私の心は置いていかれた子供のままだった。だから反発してしまって、素直になれなかった。もっとちゃんと過去と向き合って、大人になっていたなら。
後悔が嵐のように押し寄せて、涙になって溢れだす。
「泣くな、花穂」
お母さんの手を握った私の手を、さらに大きな手が包みこむ。
見上げると、黎さんが真っ直ぐに私を見つめていた。
「到着します」
救急隊員の声がした。救急車は病院の敷地内に入り、救急患者の搬入口へ。ストレッチャーに乗せられた母は救急外来へ運び込まれた。
「黒崎先生。偶然乗り合わせたって本当だったんですね。カルテは開いてあります」
当直らしいドクターが寄ってくる。母の周りは三人の看護師さんが取り囲み、再度血圧を確認している。
「はい。パソコンを貸してもらいます」
黎さんはスタッフしか入れないカウンターの中でパソコンを操作する。その画面には母の電子カルテが開かれているようだ。