クールな外科医のイジワルな溺愛
二、三分画面を凝視したあと、彼は指示を出す。
「とにかく、まず画像を。必要なら僕が緊急オペをします」
「でも先生、今日はお休みじゃ……」
状況が飲み込めない救急のドクターがおろおろしていると、黎さんはきっぱりと言った。
「いえ、この患者は絶対に僕が執刀します」
母を載せたストレッチャーが、看護師さんたちに運ばれていく。
「お母さん……!」
「大丈夫。CTを撮ったら戻ってくるから」
母を追いかけて走り出しそうになった私を、黎さんが止める。
「カルテがあったよ。お母さんは、胆管癌を患っている」
「癌……」
お父さんと同じだ。絶望的な予感が全身を駆け巡っていく。
「一年前、近所の診療所から紹介状をもらってこの病院を一度は受診している。その時には離婚していたのか、家族欄の記入がない。友人に保証人になってもらったようだ。検査入院をして癌と診断され、その後の記録がない」
「記録がない?」
いったいどういうこと。首を傾げた私に、黎さんは神妙な面持ちで説明する。
「厳密に言うと、治療をした記録がないんだ。一度退院した後の外来の予約がキャンセルされてる。電話で事情を聞いた看護師の記録によると、『治療を受けるお金がない』と言って電話を切られたそうだ。それから来院していない」