クールな外科医のイジワルな溺愛

「じゃあお母さんは癌を患っているのに、手術も抗がん剤治療も何もしていないってこと?」

「たぶんね」

母が、お父さんと同じように病気で苦しんでいたなんて。

「どうして、何も治療をしなかったんだろう」

生活保護を申請して受理されれば、治療費も入院費もタダになるはず。他にも高額医療の申請とか、保険とか……。

「今そこを考えても仕方ない」

そうこうしていたら、CTを撮り終えた母が戻ってきた。相変わらず酸素マスクをつけられている。まぶたは固く閉じられていて、看護師さんが話しかけても返事はない。黎さんは救急のドクターと一緒にパソコンの画面を覗き込んだ。

「出血してますね。転移もしてる」

「……手強いな」

「出血している箇所をクリップか何かで止めるとして、一時的な処置にしかならないかもしれません。それでもやりますか? 病院で看取る方向での入院もできますが……」

救急のドクターが、黎さんだけでなく私を見てそう尋ねる。

手術をしても、少しだけ命を長らえさせるのが精いっぱいってこと?

苦しそうな母の顔を見る。

どうしよう。病名を知りながら治療をしてこなかったということは、母はもうこうなることを覚悟していたんだろう。それを私の意志で勝手に手術なんてしていいのかな。

それに、手術をしても短い時間しかもたないかもしれない。それなら、もうこのまま楽にさせてあげた方がいいの?

迷って決断できない私に、黎さんが決然と言い放つ。


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