クールな外科医のイジワルな溺愛
だけど、こんな自分じゃダメだ。このままじゃ、一生前に進めない。これからもずっと、置き去りにされた子供のままになってしまう。
「オペ室の準備、整いました」
カウンターの中で鳴った電話を取り、看護師さんが知らせる。
手早く手術着に着替えさせられた母が運ばれていく。私は待合室へ行くように、救急センターに残る看護師さんから優しく促された。ひとりで放り出されるのだと思うと、心細くて泣きそうになる。そんなとき。
「大丈夫。俺を信じろ」
上着を脱ぎながら救急センターを出ていく黎さんが、通りすがる瞬間に私の頭をなでた。びっくりして見上げると、天才外科医と謳われる彼は不敵に笑っていた。
「はい……!」
返事をすると、黎さんはうなずいて背を向けた。その背中は今まで見たどの背中よりも、頼りがいがある。顔が見えなくてもその背中だけで、彼のことを信じられる気がした。