クールな外科医のイジワルな溺愛
母の緊急手術から、一週間後。私は病院から連絡を受け、仕事が終わるなり一目散で母の病室を目指していた。
母の体はやはりガンに侵されており、あちこちに転移しているとか。開腹した黎さんも一度は顔をしかめたらしい。
彼の説明だと、母のガンはできたところが悪かったらしく、胆管の周りの肝臓、胆嚢、リンパ節も切除するしかなかったとか。切除の前に肝臓を残すための処置も必要であり、手術は長時間に及んだ。
なんとか大手術に耐え一命をとりとめた母は、ずっとICUにいた。けれど今日のお昼休憩のときに、ICUの看護師さんから一般病棟に転棟したという連絡を受けたのだった。
広い総合受付を通り、エレベーターに乗ろうとしたところで、肩をたたき呼び止められる。
「花穂さん」
「えっ、あっ!」
振り返ると、そこにいたのは麗香さんだった。
「どうしてここに?」
エレベーターの前から離れて尋ねると、麗香さんはバツの悪そうな顔をし、長い前髪を掻き上げる。
「お兄さんに怒られたのよ。あなたをいじめるなって」
「えっ?」
「あなたのお母さんにお金を貸したなんてウソ。お兄さんをとられたのが悔しくて、意地悪をしたかっただけなのよ」
いきなりそんなことを言われて、私は口をあんぐりと開け放してしまった。