クールな外科医のイジワルな溺愛
麗香さんは言いたいことだけ言うと、颯爽とトレンチコートを翻し、その場を去っていった。
まさか、私に謝るためだけにここで待ってたの? もしかして、あの人意外に暇なのかな……。
しばらく呆然としていたけど、ふと母の事を思い出した。思わぬ足止めを食らったけど、早く病室に行こう。
母は麗香さんにお金を借りにいったりしていなかった。それだけで、だいぶ心が軽くなった。自分の母親がまだ救いようのある人間だと思うと、嬉しかった。
エレベーターで12階に上がり、転棟先のナースステーションに声をかけると、すぐ近くの個室へ案内された。ドアを開けると、そこは見覚えのある個室。私やお父さんが入っていた個室と同じタイプ。
「まさか、三人同じ病院に入院することになるとはね」
ベッドの上の母は、酸素マスクが外されていた。それだけ呼吸状態が安定してきたということだろう。眠っているようで、部屋の中は彼女の寝息と心拍数モニターの音しか聞こえない。
とりあえず、持ってきた荷物を収納しようとテレビ台の下の戸棚を開けると。
「あ……花穂ちゃん」
「ごめん。起こしちゃった?」
母が目を開けた。もう遠慮することはないと、紙袋から洗濯してきたパジャマや下着をしまっていると、背中の方からか細い声が聞こえてきた。