クールな外科医のイジワルな溺愛

「ごめんね、迷惑かけて……こんなつもりじゃなかったのに……」

しゃがんだまま振り返ると、母は首だけこちらを見て、泣きそうな顔をしていた。

「死ぬ前に花穂ちゃんに謝りたかっただけなのに……生き延びてもどうしようもないのに」

「のにのにうるさいなあ。謝られたってね、過ぎたことはどうしようもないの。それにせっかく先生が生き延びさせてくれたんだから、なるべく楽しいことを考えて最後まで生きるしかないの。めそめそしない」

立ち上がって腰に手をあて、叱るように言う。いったいどっちが親なんだか。

ICUで目が覚めた時から、母とは少しずつ会話をしてきた。その中で、母がどうやって生きてきたかを初めて知ったのだった。

母は家を出てから、彼氏と再婚してそれなりに幸せに暮らしていたとか。でも、子供はできなかった。旦那さんは豪快なトラック運転手で、真面目に働いてはいたけど遊び方も派手で、いつも家にはお金がなかったらしい。

近年になって、旦那さんは居眠り運転のために自分で起こした事故で亡くなった。ひとりになったお母さんは急に寂しくなり、自暴自棄な生活を始める。飲み慣れないお酒におぼれ、気づいたら病気になっていたとか。

どうせ一人だし、生き延びたっていいことなんてないんだから、辛い治療をするより、このまま余生を過ごそう。そう決めて、通院も治療も放棄したんだそう。


< 199 / 212 >

この作品をシェア

pagetop