クールな外科医のイジワルな溺愛

そう言えば黎さん、出かける前にサインしてほしいものが色々あるって言ってたっけ。今の母じゃ、サインすら難しいから。しかもそういう書類は、個人情報の関係で医師が病院の外に持ち出しちゃいけないみたい。

ボールペンを取り出し、一枚一枚確認する。

「ごめんね、花穂ちゃん。本当に……」

「いいって」

小難しい文章で書かれた書類を確認するには、時間がかかる。私が椅子に座ってそれを読んでいるうち、母は本格的に寝てしまった。

また、この前ひどいことを言った件について謝れなかった。素直になるって難しいな。本当、私って進歩ない。

一通り目を通してから担当ナースに声をかけようと思い、やっと最後の一枚になったころには病室は真っ暗になっていた。母を起こしてはいけないと思い、テレビ台のフットライトだけを点ける。

携帯を取り出し、最後の一枚を照らす。さて、これはなんの書類かな……。

「んん?」

そこには書かれているはずのない文字が。暗いせいかと思い、目をこする。

「お母さん、ごめん」

母の頭上にある読書灯を点ける。その下で書類を見て、息が止まりそうになった。少し硬直したあと、病室を飛び出した。

携帯の通話が許可されている休憩所で、やっと持っていた携帯を操作した。呼び出したのは、黎さんの電話番号。

──プルルルル、プルルルル……。

何度もコールするけど、黎さんはなかなか出ない。仕事中なんだろうか。諦めようとしたそのとき。


< 201 / 212 >

この作品をシェア

pagetop