クールな外科医のイジワルな溺愛
そう言えば黎さん、出かける前にサインしてほしいものが色々あるって言ってたっけ。今の母じゃ、サインすら難しいから。しかもそういう書類は、個人情報の関係で医師が病院の外に持ち出しちゃいけないみたい。
ボールペンを取り出し、一枚一枚確認する。
「ごめんね、花穂ちゃん。本当に……」
「いいって」
小難しい文章で書かれた書類を確認するには、時間がかかる。私が椅子に座ってそれを読んでいるうち、母は本格的に寝てしまった。
また、この前ひどいことを言った件について謝れなかった。素直になるって難しいな。本当、私って進歩ない。
一通り目を通してから担当ナースに声をかけようと思い、やっと最後の一枚になったころには病室は真っ暗になっていた。母を起こしてはいけないと思い、テレビ台のフットライトだけを点ける。
携帯を取り出し、最後の一枚を照らす。さて、これはなんの書類かな……。
「んん?」
そこには書かれているはずのない文字が。暗いせいかと思い、目をこする。
「お母さん、ごめん」
母の頭上にある読書灯を点ける。その下で書類を見て、息が止まりそうになった。少し硬直したあと、病室を飛び出した。
携帯の通話が許可されている休憩所で、やっと持っていた携帯を操作した。呼び出したのは、黎さんの電話番号。
──プルルルル、プルルルル……。
何度もコールするけど、黎さんはなかなか出ない。仕事中なんだろうか。諦めようとしたそのとき。