クールな外科医のイジワルな溺愛
「主治医のサインはしておいたから。あとは、患者さんの同意が欲しい。どうかな?」
「冗談じゃないんですよね? 本気なんですよね?」
尋ねると、それまで微笑んでいた黎さんが口を尖らせた。
「冗談でこんな恥ずかしい書類作れるかよ」
ぼそっとこぼす黎さん。
「本気で、私と……」
黎さんが私と結婚しようと言ってくれている。そう実感すると、また涙が込み上げてくる。
何の後ろ盾もないどころか、病人の母親までついている。そんな私の状況をわかっていながら、結婚しようとしてくれるなんて。
「こんな面倒臭い患者、いないですよ」
「一生面倒見るよ」
「あとで後悔したって知らないから」
「たぶん大丈夫だと思うけどね」
また余裕の表情で私を見下ろす黎さん。私は彼の白衣に手を伸ばす。胸ポケットにさしてあったボールペンを奪い、紙を胸板に押し付けた。
かりかりと、その場で自分の名前を書き込む。字は歪んでしまったけど、立派な同意書ができあがった。
「じゃあ、お願いします先生。私の全てを、あなたに委ねます」
差し出した同意書を受け取った黎さんは、にっと笑ったかと思うと、力強く私を引き寄せ、抱きしめた。
消毒のにおいが鼻を刺激する。それ以上に黎さんの胸の温かさが全身に染みて、涙が溢れ落ちた。