クールな外科医のイジワルな溺愛
「無理言わないでよ。花穂ちゃん、黒崎先生と暮らしているんでしょ。家賃がバカ高いエリアなんでしょ」
そう言われればそうか。黙ったままうなる私に、母が言う。
「若い二人の邪魔をする気はないから。花穂ちゃんは先生と二人きりの生活を楽しみなさい」
「そう言われても」
母が闘病中なのに、それを忘れたように過ごすのは難しい。
「そこに私が入り込んだら、最初は良くてもきっと私を邪魔な疫病神と思う時がくる。適度に離れていた方がいいのよ」
疫病神は言いすぎだと思うけど、それはたしかにあるかもしれない。近くにいるとそれが当たり前になってしまう。お互い遠慮がなくなって、うざったくなるときもあるだろう。
「私は大丈夫だから、花穂ちゃんは好きなことしてていいのよ。若いのは今だけなんだから。恋人と一緒にいる時間も、とても大切なのよ」
「はあ……」
昔、幼い私を放り出した罪悪感があるのか、歳をとって達観したのか、やけに物わかりの良さをアピールしてくる母。
それが本心なのかどうかわからないけど、とりあえずうなずいて黎さんのマンションに帰ることにした。