クールな外科医のイジワルな溺愛
二人で私が作った食事をとりながら母の発言を伝えると、黎さんはくすくす笑った。
「花穂のお母さんって感じだ。意地っ張りで、なんとなく男前」
なによそれ。私と母が似ているって言いたいの? ちょっと心外だわ。
「まあ、あの時は吐血してびっくりしたけど、開腹したら完全に手遅れってわけでもなかったから。手術できる状態だったからね。元気になればいつも通りの暮らしに戻りたいと思うのが普通じゃないかな」
「そうかあ……心配しすぎかなあ」
サバの塩焼きを箸でツンツンしながら口を尖らせると、黎さんはうなずく。
「心配する気持ちもわかるけどね。まずはお母さんの気持ちを大切にしてあげたら」
「うん……」
「花穂が構ってくれるのがわかったから、もう自暴自棄にはならないはずだよ」
母が治療を拒否していたのには、お金が払えないからという理由が一番だったようだけど、その奥には寂しさがあったんだろうと黎さんは言う。
子供も孫も旦那もいない、どうせ自分が死んでも悲しむ人はいない。生き延びて喜んでくれる人もいない。だから母は自分の体なんてどうでもよくなってしまったんだろう。
その気持ちはわからなくもない。私もお父さんを亡くしてから黎さんと出会うまで、『どうせ誰も私のことなんて見ていない』と自堕落な生活を送っていた時期があったもの。