クールな外科医のイジワルな溺愛

納得して、食べ終わった食器を片付けようとする。シンクに置いた食器に水を溜め、洗おうと腕まくりをすると。

「いいよ、俺がやる」

「えっ、でも」

「花穂は飯を作ってくれたから、俺がやるよ」

黎さんは私の手からスポンジを奪う。彼は仕事が終わってから病院に通う私が大変だから労わろうと思ってくれているみたい。

なんてありがたいのか……。思わず両手をあわせて拝んでしまった。

お風呂を溜めるボタンを押して、ソファーに座ってテレビを見る。

ああ、ぼーっとくつろげる時間って貴重だなあ……。

母が入院してからずっと気が張っていたせいか、ホッとしたら急激に眠くなってきた。

黎さんがそう言うってことは、母の病状は絶対誰かが付き添って看病を続けなきゃいけないほど深刻じゃないってことだよね。もちろんこのまま入院を続けて色々検査や治療をしてから退院となるだろうけど、私にはまだ母の全てを背負う覚悟はできていなかった。

仕事を辞めて、ずっと寝た切りの母に付き添いしなくちゃいけなくなったらどうしよう。私にそれが耐えられるだろうか。

母には申し訳ないけど、そういう不安が最近の私の心の大部分に雲をかけていたことは事実だ。

とにかく少し気が抜けた私は、テレビを見ながらウトウトしてしまう。このまま寝込んではいけないと思いつつ、睡魔に抗えずソファーに沈んでいた、そのとき。


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