クールな外科医のイジワルな溺愛
「ああ、どうも。すみません、あいにく今名刺は持っていなくて。入院に関することは看護師から連絡すると思いますので。よろしくお願いします」
華麗にスルーされてる……。先輩は憤慨するかと思いきや、にこにことうなずいた。
「先生は……えっと、主治医の先生ですか?」
「ええ、そうです」
そうなのか。昨日「俺はお前の怪我を綺麗に治すのが仕事だ。俺の仕事の邪魔は許さない」なんて言ってたけど、本当に主治医に決まっちゃったんだ。
「じゃあ、専門は整形外科で?」
「いえ、本職は外科です。昨夜はたまたま当直の整形外科医がいなくて。代わりに執刀したんですが、一度診た患者は最後まで面倒を見るのが僕の主義でして」
「素敵です」
何が素敵なのか。一番華やかそうな外科医ってことが素敵なのか、彼の主義に共感しているのか。おそらく、前者だろう。
まあ、この見た目だもんね。しかも実は癌をバサバサ切っている天才外科医ときたもんだ。天才っていうのは、お父さんの入院中に看護師さんが言っていたのを聞いただけだけど。
「先輩、そろそろ戻らないといけないんじゃないんですか?」
私が休職してるってことは、毎日ギリギリの人数で回している経理の人手が足りないってことだ。みんな早く先輩に戻ってきて欲しがっているだろう。私が声をかけると、先輩は時計を見てため息をついた。