クールな外科医のイジワルな溺愛
「はい、外科黒崎です。はい、はい……吐血。熱は?……わかりました。すぐ行きます」
首から提げたストラップには『医療用PHS』とプリントされている。昔の携帯みたいなそれのボタンを操作し会話を終えると、黒崎先生は身軽に立ち上がる。
「今日はオペがないからのんびりできると思ったんだが、そうもいかないみたいだ」
「どうかしたんですか?」
「救外に呼ばれた」
「きゅう……?」
「救急外来。明日はオペが入ってるし、明後日は休み。しばらく会えないけど、泣くなよ」
子供をあやすように、ぽんぽんと私の頭をなでる先生。
「泣くわけないじゃないですか」
先生に会えないだけで、泣くわけない。私、そんなに乙女じゃない。
「そう? お父さんの入院中はよく泣いていたから。泣き虫だと思ってたけど」
「は……?」
お父さんの入院中? そりゃああの時は心配でよく泣いていたけど、病室や病棟内で泣くことはしなかった。お父さんに気づかれたくなかったから。それをどうして先生が知っているの?
「まあいいや。じゃあ」
謎を残し、黒崎先生は病室から出ていった。