クールな外科医のイジワルな溺愛

「はい、外科黒崎です。はい、はい……吐血。熱は?……わかりました。すぐ行きます」

首から提げたストラップには『医療用PHS』とプリントされている。昔の携帯みたいなそれのボタンを操作し会話を終えると、黒崎先生は身軽に立ち上がる。

「今日はオペがないからのんびりできると思ったんだが、そうもいかないみたいだ」

「どうかしたんですか?」

「救外に呼ばれた」

「きゅう……?」

「救急外来。明日はオペが入ってるし、明後日は休み。しばらく会えないけど、泣くなよ」

子供をあやすように、ぽんぽんと私の頭をなでる先生。

「泣くわけないじゃないですか」

先生に会えないだけで、泣くわけない。私、そんなに乙女じゃない。

「そう? お父さんの入院中はよく泣いていたから。泣き虫だと思ってたけど」

「は……?」

お父さんの入院中? そりゃああの時は心配でよく泣いていたけど、病室や病棟内で泣くことはしなかった。お父さんに気づかれたくなかったから。それをどうして先生が知っているの?

「まあいいや。じゃあ」

謎を残し、黒崎先生は病室から出ていった。


< 37 / 212 >

この作品をシェア

pagetop