クールな外科医のイジワルな溺愛
今日も小奇麗な先生を見ていると、三つ編みをして汗だくになっている自分が恥ずかしくなってきた。病院だからもちろんすっぴんでパジャマだし。パジャマは会社の見本品をナミ先輩が持ってきてくれた可愛いものだからセーフだけど、他は完全アウトだ。
あれ、変だな。少し前まで補色コーデで平気で外を歩いてたのに。すっぴんでパジャマが恥ずかしいだなんて……。
「じゃあ。また病室にうかがいます」
ひらりと白衣の裾を翻して背中を向ける黒崎先生。
「えっ」
今来たばかりなのに、もう行っちゃうの? 思わずそんな気持ちが声に出てしまって後悔した。振り向いた先生が、にやりと意味ありげに笑う。
「今、“もう行ってしまうのか、寂しいな”……と思いました?」
周りにはまだ人がいる。敬語でそんな意地悪を言う先生の綺麗な目がキラキラ輝いている。
「思っていません!」
「それは残念。では、また」
先生は時間がないらしく、早足で訓練室を出ていった。なによあの人。意地悪を言うときにあんな楽しそうな顔をするなんて、やっぱり性格が悪いんじゃないの。
「芹沢さんって黒崎先生が主治医なんですね。うちの若いのが目を奪われてますよ」
そう言い、近くで見ていた三十代の男性療法士さんが苦笑した。周りを見ると、カウンターの中で事務作業をしていた女性療法士さんたちがぼーっと黒崎先生の後姿を見送っていた。