クールな外科医のイジワルな溺愛
「そうよお。おばちゃん寂しいわあ」
寂しい、か。私も退院したら黒崎先生とは会えなくなるんだろうな。退院後何回か通院することになったとしても、黒崎先生の外科の外来に通うことはまずないだろう。転科して、他の整形外科の先生の外来にお世話になるんじゃないかな。
そう考えると、妙な気分になった。
思いがけない事故で再会したけど、退院したらあっさりさようならなんだろうな。お父さんのときもそうだった。お世話になった看護師さんたちも普段の業務が忙しいせいか、人の死や退院に慣れているせいか、死後の対応はかなり業務的であっさりしたものだった。
まあ、そうよね。先生も患者の怪我や病気を治すのが仕事であって、退院後の人生にまで関わってたらキリがないもの。
そんなことをぼんやり考えていたら、いつの間にか病室がある九階に着いてしまっていた。助手さんは私がベッドに腰を下ろすと、車いすを畳んですぐに出て行ってしまう。次の患者さんを送迎しなきゃいけないからだろう。
ひとりきりの個室は静かすぎる。部屋の中にはオレンジの夕日が差し込んで来ていた。