クールな外科医のイジワルな溺愛
「昨夜は悪かったな。睡眠薬を処方しておくから、転棟したらゆっくり休めよ」
長い人差し指で、右の下まぶたをそっとなぞられる。もしかして私、クマができている?
たったそれだけで、先生は私がこれからも眠れない夜を過ごすであろうことを察知してくれたんだ。
考えないようにしていたけど、結局一般病棟ではどこでも男の人がいる。病室のドアはいつでも医師や看護師が入れるように、鍵がついていない。今回のように誰かがそっと抜け出しても他の病室に入っても気づかれない場合がある。けど、女性ばかりの病棟なら安心だ。
「ありがとうございます。あの、転棟しても主治医は変わらないんですか?」
そろそろ、外科の黒崎先生じゃなく、整形の先生に主治医変更される気がする。
「ああ、退院までは俺が責任もって診させてもらう。けど、退院後の通院は、他の先生になりそうだな」
黒崎先生は外科の方で忙しい。整形の患者にかまっている暇はないし、整形の患者が外科の外来に行くのはおかしい。わかっていたはずなのに、胸に波が立つ。
「俺に会えなくなったら寂しいか?」
曇った表情をしていたのか、黒崎先生がからかうように私の顔をのぞきこむ。余裕な表情が悔しさをあおる。誰が寂しいなんて思うものか。
「先生こそ、私に会えなくなるのが寂しいんじゃないですか?」
言い返すと、先生は一瞬虚を突かれたような表情をした。そして、ふっと微妙な苦笑いを浮かべた。