クールな外科医のイジワルな溺愛

そうなのよ。あいつ、休みだって。どうして休みの日に退院させるかな。ちょっとずらしてくれたっていいのに。

最後に黒崎先生の顔を見てから退院したかったなんて、口には出せなかった。ただこんなに胸をかき乱されているのが自分だけだと思うと悔しい。

「先生のバカ」

ぽつりと呟く。

こんな思いを抱えたまま退院するなら、最初から再会なんてしたくなかった。

お父さんが死んだ時はもう手術後で内科に転科していたから、まるでフェードアウトしていくように先生の存在は自分の中から消えていた。色恋にかまけている場合じゃなかったし。

そのままフェードアウトしてたら良かったのに。もしかしたら私だけは先生の特別なんじゃないか、なんておかしな期待だけさせて。

「もういいや。どうせすぐ忘れるよ」

明後日から職場に復帰したら、また日々の生活に追われる。ここでの濃い毎日は夢みたいに思えることだろう。

深呼吸をして気持ちを落ち着け、荷物をまとめはじめる。それは意外に集中力が必要な作業で、モヤモヤした気持ちから逃げることができた。

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