クールな外科医のイジワルな溺愛
黒崎先生の車は、私のアパートとは逆方向に走っていく。
「あのう先生、そもそも私のアパートを御存じで?」
突然患者を拉致して、いったい何が目的なんだろう。得体の知れない不安で、先生の顔を真っ直ぐ見ることができない。ちらりと横目で見ながら聞くと。
「行ったことはないが、住所は頭に入ってる」
「カルテを見ましたね?」
「主治医だからな。患者の基本情報は頭に入れておかないと」
今では住所も病状も診察記録も処方も何もかも、電子カルテに入力されている。先生が私の情報を見るのはたやすい。でも、個人情報という観点から見てどうなのそれ。
「では今からどこへ行くんですか?」
住所が頭に入っているなら、このルートはおかしい。私が知らない近道というわけでもなさそう。
「誰も迎えに来てくれない可哀想なお前に、快気祝いをやるよ」
「えっ?」
顔を上げると、黒崎先生は前を見て運転したままにっと笑った。
「病院食はまずかっただろ。何か食べさせてやる。何が良い?」
うそ。何か食べさせてくれるの? お昼にはまだ早いけど、お腹は正直に空腹を訴えてくる。