クールな外科医のイジワルな溺愛


平気な顔でさらっとえらい注文を出す先生。私がひとりでこんなことを言ったら、無視されるだけだろう。けれど黒崎先生のオーラに圧倒されたのか、店員さんは“はい”と返事をして大きくうなずいた。

「あ、お腹もしめつけないものがいいな。何か嫌いな色とかある?」

いきなり話を振られ、清算カウンターで出された椅子に座っていた私はビクッと肩を震わせてしまった。

「いえ、特には……目がチカチカしないようなものであれば、なんでも」

アパレル会社に勤めている割にこだわりがなくてごめんなさい。ただの経理なんで許して。

店内に飾られているのはシンプルながら美しいシルエットを持つ洋服たち。色はビビッドなものから落ち着いたものまでさまざまで、普段のおしゃれ着からフォーマルまで対応できそうな豊富なデザインがそろっている。私たちの他に十代後半から二十代くらいのお客さんが何組かいた。

「若い子たちに人気があるんだな~……」

ふと目に入ったワンピースが一着五万近く。自分も二十代だし、このお洋服はすごく可愛いと思うけど、経理のお給料じゃとても手が出せない。会社の見本品も経理まで回ってくるのは稀で、人気ブランドのものはほとんどお目にかかれない。社割もあるけど、それでも高い。


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