クールな外科医のイジワルな溺愛

こくんとうなずくと、先生は私の手を引いたままお店の中に入る。案内されてついた席には、昔の高級中華料理店のイメージでよくある回転テーブルはなかった。四角い二人用テーブルに、白いクロスがかけられている。

ところどころに中華風のぼんぼりみたいな照明が立てられていて、大きな水墨画が白い壁に飾られていた。

ちょうどお昼時なので、店内はお客さんで込み合っている。こんなお店でランチできる身分の人間が、世間にはたくさんいるのね……。

「高級店じゃなくて悪いな。お前が怪我してなかったら、もう少し移動できたんだけど」

「とんでもない。ここでも私からしたらとても高級です」

イスに座ってメニュー表を開いた途端、後ろに倒れそうになった。ふかひれランチコース八千円だって。これで高級じゃないなんて、お医者さんたち、普段いったい何を食べて生きているの。

「どれでも好きな物を」

って、そんな自然な表情で言われたって。

「じゃ、じゃあ……これで!」

一番お安い麻婆豆腐を指さした。他にも飲茶とか色々あるけど、一皿でお腹が満たされそうだし。


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