クールな外科医のイジワルな溺愛
はあ、助かった……。
ふーっと長い息を吐く。ようやく落ち着いた頃に、アイスクリームの器が空になってしまった。お水をもらおうと顔を上げて、どきりとした。
目の前の黒崎先生が、右手で頬杖をついて、じっと私を見つめていた。その目は珍しい昆虫を見つけた子供のように輝いていた。それは眩しすぎて、優しく笑った口元の方に視線を落とした。
食事を終えると、黒崎先生は私をアパートまで送っていってくれた。
きらびやかな街を抜け出し、いつものしみったれた風景が目前に広がると、胸に重苦しさを感じた。いきなり胃に負担をかけたせいかな。それとも、先生と別れるのが寂しいから?
「あの……この辺りで降ろしてください」
アパートはまだ見えない。古くて外観の汚いアパートを先生に見られたくなくて、あえて曲がるはずの角の二つ前の信号でそうお願いした。けれど。
「玄関まで送るよ。荷物もあるし。部屋番号が203ってことは、二階だろ?」
私の住所を暗記してきたらしい先生がそう言う。車を停めてくれる気配はない。
そうだよ、二階建てアパートの二階だよ。当然、エレベーターはない。荷物を運んでくれるのは本当に助かる。松葉杖をついたまま入院の荷物を持って階段を上がるのはしんどい。だけど、だけど……。