クールな外科医のイジワルな溺愛
どうしてそんなにアパートを見られることをためらうのか、自分でも説明がつかない。膝の上で指をこすり合わせているうちに、車のカーナビが目的地を知らせてしまった。
古いクリーム色をした鉄筋コンクリートのアパートが嫌でも目に入る。築二〇年、屋根の色は褪せ、ポストは茶色い錆が浮いている。
「なんだこれ」
黒崎先生はアパートの脇に車を停め、眉をひそめて古いアパートを見上げる。
「これでも人が住んでるんです。なんだこれってことはないでしょ」
「エレベーターがない」
「階段はあります」
他に住んでいるのは独居の人ばかり。若い人も老人もいるけど、お金持ちはひとりもいないだろう。外壁にはヒビやシミがあって、ドクターである黒崎先生がひいてしまうのもわかる。
だから見られたくなかったのに。自分と先生の住む世界は違うんだって、確認したくなかったのに。わかってたって、そんなにあからさまにひかれたら傷つくよ。
「ありがとうございました。これで失礼します」
車を降りると、運転席から黒崎先生も降りてきた。
「先に部屋の鍵を開けておけ。荷物は運んでやるから」
後ろのトランクを開けてそう言う先生。さすがに狭い部屋の中まで見られたくない。けど、荷物を一人で運ぶのも大変そう。