クールな外科医のイジワルな溺愛
「じゃあ、部屋の前まで……」
玄関先で帰ってもらえばいいや。黒崎先生が荷物を下ろしてトランクを閉めたのを確認すると、片手に松葉杖、片手で階段の手すりを持って恐る恐る階段を上り始めた。
ワンピースのスカートの中を見られるかも、なんていう心配をしている場合じゃない。下手すればまた病院行きだ。
「気をつけろよ」
後ろから黒崎先生の声が聞こえる。私ももう怪我をして入院なんてしたくない。完治していない右ひざに体重を乗せると痛いので、左足で飛ぶようにして一段一段上っていたらすぐにふくらはぎが痛くなってきた。
「おぶってやろうか」
「いいです。明日からは一人で上り下りしなきゃならないんで、練習します」
「そんな強がり言って……」
呆れたようなため息が聞こえ、思わず後ろを振り返る。強がりなんて言っていないと反論しようとしたけど、左足が早く部屋に着きたいと言っている。ぷいっと前を向きなおし、次の一歩を踏み出そうとしたとき。
「あっ」
左足は限界を迎えていた。思っていたより全然足は上がらず、次の段につま先が乗っただけだった。もちろんそれだけでは全体の体重を支え切れず、体が後ろに大きく傾いた。
あ、私死んだ。
思わず左手をばたつかせ、捕まるところを求める。けれど体は虚しく宙を泳ぎ……落下するんだと覚悟した瞬間、背中が柔らかいものにぶつかった。