クールな外科医のイジワルな溺愛
目の前の黒崎先生の美しい顔は、至極真面目で冗談を言っているようには見えない。
“俺の部屋に行こう”って。それこそどうして。大きく首をかしげた私に、先生はゆっくり説明する。その顔は、お父さんの病状を話してくれた時のことを思い出させた。
「お前をこんなところに置いておけない。建物の古さやセキュリティの甘さはまだしも、エレベーターがないのは許せない」
「ええと……」
「せっかく治した理想の足がこれ以上傷つくのは我慢ならない」
この人、何言ってるの? 理解ができず、まばたきを繰り返す。
「さあ、早く荷造りをして。手伝うから」
先生の手が背中を押す。
「ちょ、ちょっと待ってください。私がこれ以上怪我をするといけないから、ここから先生の部屋に引越ししろって、そういうことですか?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「わかりづらいですよ!」
まさかいきなりそんなことを言うとは思わないじゃない。家族や彼氏に言われるならまだ受け入れようがあるけど、黒崎先生は元主治医なだけで、つまり他人だ。
「大丈夫です、今日中に左足を鍛えますから。右足だって、ずっと痛いわけじゃないし」
確かにこの階段を片足で上り下りして電車通勤するのはしんどい。けど、いきなり他人の男性の家に上がり込むわけにはいかない。