クールな外科医のイジワルな溺愛
「医学的に言って、一晩で左足を強化するのは不可能だ。完治するまで俺の部屋にいろ。これは主治医命令だ」
黒崎先生は両手を組み、私を偉そうに見下ろしてそんなことを言う。
「主治医って……元主治医じゃ……」
それに、先生に命令される筋合いはないはずで……。
「つべこべ言うな。もういい、力ずくで連れていく」
私を部屋のドアに追い詰め、またお姫様抱っこしようとする先生。距離が近すぎるってば。体温を感じるほどの近さに我慢できず、両手で黒崎先生の胸板を押し返した。
「やめてください! 警察呼びますよ」
力ずくで連れていこうなんて、そんなの誘拐じゃない。目に力を入れて先生をにらむ。けれど。
「意地をはらずに俺を頼れ。こんな時に家族も頼れる友達もいないなんて、放っておけるわけないだろ」
「う……」
「ひとりで生きていける人間なんて、いないんだよ。いい加減中二みたいなこと言ってないで素直に俺を頼れ」
先生の飾りのないセリフが胸に刺さる。かさぶたをむりやり剥がされたみたいな痛みを感じた。
お父さんを失ってから、本当はずっと寂しかった。でも、他人を頼ってはいけないと意地を張ってきた。
片親だからとなめられたくない。両親のように離婚してしまうかもしれないなら、結婚なんてしたくない。誰にも頼らず、ひとりで生きていけるようになろう。そうやって子供みたいに意固地になっていた自分に気づいて恥ずかしくなる。