クールな外科医のイジワルな溺愛
「大丈夫。マンションに一人住まいで部屋は余っているし、俺は仕事で部屋にいる時間は少ない。置いてやる代わりに家賃や家事を要求することもない。しかもここよりお前の職場から近い」
ぐらりと心が大波にさらわれたように揺れる。家賃がいらない。家事もしなくていい。ただ怪我が治るまで、エレベーター付きのマンションに住めるだけ。
「なにも……しませんか」
私は控えめに先生に質問した。
今は無害な黒崎先生でも、一つ屋根の下にいたらどんな気まぐれを起こすかわからない。自分が魅力的だからとかじゃなく、単に私たちはオスとメスだから。何があるかわからないじゃない。
「俺の一番の目的は、お前の右ひざを無事完治させること。それまでは何もしない」
先生はキッパリと言い切った。同居の期限は、膝が完治するまで。ということは、その間何もしないということ。完治したらお別れだから、結局私たちは医者と患者の関係のまま。発展しようがない。
それに黒崎先生が嘘を言っているようには見えない。彼が私をだますメリットもない。
よく考えれば先生はドクターで、しかもイケメン。一晩共に過ごしてくれる相手なんて、いくらでもいるだろう。飢えてなさそうという点で、他の男性よりはきっと安全だ。
「それなら、お世話になります」
お父さんが見ていたら怒るかもしれない。彼氏でもない人の家に泊めてもらうなんて。仕方ないよね。こんな非常時だもの。他に頼れる人もいないし。
私が短くうなずくと、黒崎先生は満足そうに目を細めた。