クールな外科医のイジワルな溺愛
まるで異世界です
自分の部屋から最低限の貴重品と出勤できる服と下着を何セットか、そしてメイク道具一式とお父さんの遺影だけを持ち、黒崎先生の車に逆戻りし、三十分後。
「あれだよ」
先生の住んでいるマンションに着いたのは、夕方に差し掛かった頃だった。目の前にそびえ立つ、まるでバベルの塔のように天に届きそうなマンションに息を呑む。
円柱型の白い塔……じゃなかった、マンションは、同じような高級マンションが立ち並ぶ街中でも一番高く、目立っていた。
「異世界に来てしまった……」
東京の中でも河川敷があるようなのどかな郊外で生まれ育った私にとっては、こんなところで暮らすなんて想像したこともなかった。
務める企業は一応東証一部上場企業だけど、自分自身はただの経理、地味でのほほんとした暮らしが合うと思っている。身の丈に合わない場所に来てしまい、落ち着かない。
マンションの脇にある駐車場棟に車を停め、黒崎先生の後をついていく。エントランスに入る前に、一階にコンビニやらカフェレストランやらが入っているのが見えて驚いた。