クールな外科医のイジワルな溺愛
「ば、ばか……」
「俺、天才だけど」
「じゃあ天才バカボン! もう、いや、帰るっ」
口から飛び出しそうなほど、心臓が胸の中で暴れまくっている。そんな自分を見られるのが嫌で、両手で必死に顔を隠した。
「帰さない」
ぼそっとそう言った先生の声が近くで聞こえた。手を離すと、先生がしゃがみこんで私の顔をのぞきこんでいた。
その目はもう私をからかって面白がっている風ではなく、じっと何かを観察するように私を見ていた。そのとき。
「……なんだろう」
先生のポケットから、バイブ音がした。それは電話の着信を告げていたようで、黒崎先生はスマホを取り出し、立ち上がる。
「もしもし。何の用?」
黒崎先生は部屋の中に私を置き去りにしたまま、廊下に出ていく。もしかして、病院から呼び出しとか? 聞き耳を立てる気なんてないのに、聞こえてくる言葉を脳が勝手に拾ってしまう。
先生は“うん”とか“そう”とか短い相槌を打つ方に徹している。会話の中身は全く分からない。床に座り込んだままの自分に気づき、ソファに移動しようとした、そのとき。
「だから。もう戻らないって言っているだろ。しつこいぞ麗香」