腕の中の神様
泣いた夜の話。



小さい頃。


悲しくて、寂しくて、布団の中でひとりぼっちで泣いていた夜。



誰かわからない女の人が現われて、優しく抱きしめてくれた。



『大丈夫、君は一人じゃないよ』


そうやって俺を安心させるように囁く。



不思議と落ち着くその腕に、縋るようにくっ付いて、泣きじゃくった。



次の日起きたら、そこにはもういなかったけど、他の日にまた俺が泣いていたら、その人は現われて、また抱きしめてくれた。


そんな事が何度もあった。



あの人は誰だったんだろう。



もう高校生になって、流石に泣くこともなくなった。



だからか、もう何年も会っていない。


顔はよく思い出せないし、名前も何にも知らない。



ただ、甘い匂いと優しい声だけは覚えていた。


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