お見合い相手は、アノ声を知る人
「俺もあんたに同じことをしてやりたかったよ。でも、あれだけで我慢してやったんだ」


有難いと思え…と言いながら手首を離す彼を苦々しい思いで見つめた。
あの夜は紳士的な人だな…と思ったけど、やっぱりただの狼だったか。


「…ほら、仕事へ戻れよ。あんたと一緒に戻ったら部署の連中に変だと思われるだろ」


始業前の時間で、まだメンバーは部署にいる。
入って間もない私が彼と二人で戻るのは、確かにおかしいと思うだろう。


自分は別にそれでもいいけど?…と不敵に微笑む彼に、とんでもない!と言い返してエレベーターに駆け込んだ。

ドアが閉まってから悔しい…とこぼし、この先どうなるんだろうかと壁に凭れる。


ーー多分、会長は私のことをあれこれと調べて知ってる。

前の職場での働きぶりについて話してた時には何も言わなかったけど、あの事を聞いてる可能性は高いし、もしもそうだとしたら、普通は可愛い孫の嫁に…なんて考えない筈だ。


どんなに江戸時代の恩義があっても就職先を斡旋してやるくらいのもんだろう。

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