お見合い相手は、アノ声を知る人
「可愛くなった。以前は何となく大人っぽい雰囲気だったけど、今は年相応って感じ」


「え……」


「今の方が月ちゃんらしいよ。私は好きだな、そのヘアスタイル」


似合うよ…と笑う本田さんは、自分の言葉が私の気持ちをどれだけ揺さぶったかなんて知らない。

そう言われて心苦しくなって、何だか悲しい気持ちにさせられたことも知らずに喋っていた。


お昼休みが終わり宿泊業務課に戻ると、上座のデスクに彼の姿があった。
外回りから戻ってきたばかりらしく、「暑っちぃ…」と呟きながら首元のボタンを外してる。

ついさっき本田さんから誉められたことを思い出して、私一人の手柄ではなかった…と考え、冷たい麦茶をガラスの茶器に注いで持って行った。



「どうぞ」


デスクの上に置くと見上げられ、キョトンとした表情で「サンキュー」とお礼を言う。

嫌味なほど綺麗な発音だな…と思いながらデスクを離れようとした。


「なあ、あんた」


呼び止める声にムッとしながら振り向く。
同時に自分は「あんた」ではありません、と言い返した。


「私にはれっきとした名前があるんです!」


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