お見合い相手は、アノ声を知る人
ふわっと優しく笑うこの人は、この間から私と彼と会長のやり取りをずっと聞いて見てるけど、無用なことは何一つ言わないし、聞こうとしない。


流石に出来た秘書さんだな…と感心しながら、一緒に会長の待つ部屋まで歩いて行った。




「お父様、お見えですよ」


個室の襖を開けてそう声をかけるのを聞き、えっ…と顔を窺った。
秘書さんは私を振り向いて微笑むと、「申し遅れましたが」と前置きして続けた。


「私、一路の母親で智子と言います。今後ともどうぞよろしくね、明里さん」


ニコニコと優しい顔をして笑う彼女を見つめたまま無言。


まさか、会長の秘書をする人が彼の親!?
どうりで、誰にも話が漏れない訳だ。
…って言うか……


「えええっ!?」


つい大袈裟に声を上げてしまった。
この店に着いて、一瞬だけホッとした気分が一気に逃げ去る。


(ホントに?それならそうと最初に教えといて欲しいよ……)


こっちは彼とのお付き合いはしません、と言うつもりで来てるのに、そこに彼の母親まで居るなんて。


(言える訳ないじゃん。あんまりだよ、これ…)


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