お見合い相手は、アノ声を知る人
オロオロ…と狼狽えきってたら、部屋の上座に座る会長が「まあ、中へどうぞ」と勧めてくる。


いや、もう帰りたいです…と泣き言を思いつつも、逃げれず部屋の中に足を踏み入れた。




三人で食前酒を飲み、綺麗に盛り付けられた懐石料理を頂いた。
そこで何を話したかなんて、まるでサッパリ覚えてない。


確か彼の子供の頃のこととか、私のことを聞かれた様な気がする。
だけど、どれもシドロモドロと話しただけで、美味しい筈の料理の味すらも分からなかった。


最後のデザートにピオーネとイチジクが出され、やっと最後だ…と思った瞬間、会長が私にこんな話をし始めた。


「先週も言いましたが、一路は明里さんがどうにもお気に入りの様子でな。だから、今後ともどうか付き合ってやって下さい」


「私からもお願いしますね。時には口煩いことを言うかもしれないけど、根は優しくていい子なのよ。ね?お父様、そうですよね」


断定的に聞くと、会長は勿論うん…と頷く。
祖父だけじゃなく、母親からも溺愛されてるのかと思うと、くらっと目眩のようなものを感じてしまった。



「……でも、私みたいな人間じゃ、彼には不釣り合いだと思います……」

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