お見合い相手は、アノ声を知る人
「先週酔い潰れた奴が言うセリフか。あんたみたいなのは氷水でも上等なくらいだ」


「氷水!?」


「ああ、案外美味いぞ。ここの氷」


本気なのか冗談のなのか、作ってやろうと言い出すから拒否した。
それならまだウーロン茶でいいと言えば、なら氷だけでも入れてやると言ってグラスに三個入れてしまう。


今夜は乾杯もせずにグラスを握って飲み出した。
ゴクンと飲み込んだ時に動く喉元を見つめながら、一瞬だけあの人のことが蘇った。



「……ジジイには断れたか?」


聞いてくる彼はグラスの中を見つめたまま。
彼の母親も居た状況で、断れなかったのは知ってる筈だ。


「食事が終わりそうな頃、母親から電話が入った。あんたを送って帰りなさい…と言われたから迎えに行ったんだが」


それで、あんなに都合良く現れたのか。
何処までも気の付くお母さんだな…と思いつつ、「そう…」と小さく呟いた。


あの席で二人がこの人のことをどれだけ愛してるかを思い知った。
何度も言ってきたけど、やっぱりこのお見合いは無かったことにしてもらうのがいい。

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