お見合い相手は、アノ声を知る人
「あの人は私の上司だったの。同じ課で働いてて、最初はそんな関係でもなく、普通の上司と部下だった」


若い女子社員達が容量よく仕事をサボり、残業もせずに帰ってしまった後始末をいつもさせられてる様な人で、不器用な上司だな…と呆れつつも、見るに見兼ねて仕事を手伝うこともよくあった。


『山根さんはもう少し皆にきちんと仕事をやれと言った方がいいですよ。若い子達に舐められてしまってるじゃないですか』


山根祐司(やまねゆうじ)というのが彼の名前。

お人好しで優しい顔立ちの彼に、叱咤激励するつもりで言ったことがある。同じ課で五年以上も務めてた私は、周りからお局扱いされてて言い易かった。


『いいんだよ。俺は別に家に帰っても子供がいる訳でもないんだし、妻だって一人でのんびりやりたいだろうから。

幾ら遅くても構わないんだ。別に早く帰ってきて欲しいなんて言ってもこないしさ』


『それはきっと言わないだけで、奥さんは山根さんの帰りを待ち侘びてますよ』


『…待ってるのかなぁ』


『待ってます。絶対に』


そう言っても、実際は全く何も知らなかった。

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