お見合い相手は、アノ声を知る人
「その日は彼が来たら一緒にワインを飲もうと思って買ってたの。そんなに高くなかったけど、私にとっては少しばかり値段を張り込んだつもりだった」


残業を適当に切り上げて、彼が部屋に来たのは午後八時。
玄関先で迎え入れて、直ぐに熱いキスを交わした。

彼をリビングに通して冷えたワインで乾杯をして、これからもよろしく…とお願いした時だった。
玄関チャイムの音が響いて、誰だろうと話しながらモニターを見た。


……そこに映ってたのは私の知らない女の人で、来る部屋を間違えたのかな…と呟いたら彼が来て、見た瞬間に青ざめて、すごく顔を強張らせたのを覚えてる。


あの表情は決して忘れられない。
悪事がバレて、戸惑いと恐怖と緊張が混ざった顔つきだったーーー。




『誰?知ってる人?』


振り向いて聞くと私のことを見下ろして、弱々しい声で『妻だ』と言った。


『ウソ…』


反射的に声が出た。
だけど、彼は首を横に振り、『間違いない』と一言足した……。


『どうして彼女が此処に来るんだ。こんな時間に外を歩いたりする女じゃないのに…』


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