お見合い相手は、アノ声を知る人
仕事で遅くなった夜にエントランスホールですれ違ったことがあるから」


バカだな…と呟き、ロックを煽る。
当然の結果だとでも言うように見える彼に、だったらもうほっといて…と願った。


「小さな命を奪ったの。そんな私が誰かと結婚したり、幸せになったりしてはいけない。

これからは一生消えない十字架を背負って生き続けてくの。それ以外に、償える方法がないんだから……」


もう二度と同じことはしない。
誰かを好きになったりもしないし、一人暮らしもやらない。

一生実家に住んで独りで居続ける。
そして、彼の亡くなった子供の為に、祈りを捧げ続けるんだーーー。



「…本当に馬鹿だな。そんなことをしなくても、あの夫婦にはまた妊娠のチャンスが来るんだぞ」


「…え?」


「あんた、何も知らないみたいだから教えといてやるよ。

今回の妊娠は、人工受精が上手くいった所為なんだ。
妊娠初期で母体に過大なストレスがあったにしても、望めばまた妊娠が出来る。

あの夫婦は長年不妊治療を続けてて、この最近になってようやくそれに踏み切ったんだ。

< 134 / 213 >

この作品をシェア

pagetop