お見合い相手は、アノ声を知る人
急に思い出して昨夜のことを考えた。
てっきりそうかと思ってたけど、聞いたのは私が謝ってた声だった。


大きな声でもなかった筈だけど、玄関先にいた所為で、反響して聞こえたのかもしれない。


あの時は、凄く恐ろしくて遣る瀬無かった。
誰に謝ればいいかも分からないくらい混乱してて、声を出し続けてたんだ。


「あんな声出そうと思っても、そうそうもう出せないよ…」


あの時のことは容易に思い出せるけど、全く同じ気持ちにはなれない。
聞かせてみろと迫られても、多分もう言えないだろう……。


「ーーでも、ごめんなさい……」


山根さんに上手く騙されてたんだとしても、奥さんのいる人と秘密の恋を楽しんでたことは消せない。

普通の恋愛じゃないけどときめいてた。
そんな自分に何処か酔い痴れてたと思うーー。


どっぷりお湯に浸かったまま反省して上がった。
久し振りに身体が温もった気がして、髪を乾かしてから外に出た。




「出たか。朝メシ食えよ」


窓辺のテーブルに付いてた人が新聞を置いて立ち上がった。
自分は先に食べたから…と言い、風呂に入ると言いながら歩いてくる。


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