お見合い相手は、アノ声を知る人
軽くなった腕をさすりながら、私は過去の日々を思い出してたーー。



別れた相手が通ってきてた部屋。
……彼処にはどうしても居れなかった。

一人で払い続けるには家賃も高くて、部屋も一人で住むには広過ぎて、オフィスには近くて良かったんだけど、そのオフィスすらも辞めずにはいられない状況に追い込まれてしまったからーー。



「……申し訳ありません。お見合いのことも結婚のことも、祖父に言って考え直させますから」


私の失態に貴方を巻き込んで悪かったと思う。
だからさっさとこの場所から離れて、私を家に帰してくれないかな。


「……あっ!」


「あ?」


そうだった。私は帰ろうにも無一文だ。
用意周到な祖父に騙されて、お金も鍵も持たずに出てきてしまったんだ。


(どうしよう……帰れないじゃん……)


お祖父ちゃんのケータイに電話をしたら出てくれるだろうか。
二人で話せと言ってたから、鳴っても無視される可能性が高いかもしれない。


 
「…何をしてるんだ?」


「祖父に連絡を取ります」


でないと私が家に帰れないから。

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