お見合い相手は、アノ声を知る人
店に入ると彼とは別行動をして、トイレで着替えを済ませてから車に乗った。

此処から寺までは十分もあれば着くな…という声を聞き、やっと着くのか…と息を吐いた。



今にも崩れそうなお寺に着いたのは、その直ぐ後でだ。

此処〜?と怪しげに聞く私に胸を張りながら、そうだ…と言う彼の後を追って車を出た。


目の前に見える総門は、県の重要文化財だと示されてある。

中国で栄えた宗教の様式だと書かれた看板をあまり深く読まずに門を抜け、中に入ると手入れもされてない庭が広がってる。

一本一本の木々は古株で、幹の大きさからして樹齢もかなりのものだと思う。

古池には塵が浮かび、台風か雷で折れ曲がった枝が、そのまま放置されてたりして不気味な雰囲気。


「こんな荒れ寺に本家のお墓があるの?訪れる人っているの?こんな所」


思いきり気持ち悪いんですけど…と囁く私を横目で見遣りながら、彼は普通に「いるだろ」と言った。


「これでも此処は観光名所なんだぞ。寺はともかくだけど、藩主の墓所が凄くてさ」


見れば分かると言いながら、一応は本堂に手を合わせてから参ろうと立ち寄った。

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