お見合い相手は、アノ声を知る人
昔話
お寺を出ると急な雨降りに遭い、予定を変更してホテルに向かった。
彼の親戚にあたる支配人は私達を笑顔で迎えてくれて、温かいお絞りを出し、濡れた服を拭いて下さいとタオルを手渡してきた。


「一路君が此処に来るのは何年ぶりだ?二十五年か…それ以上か」


シルバーヘアの支配人は、目尻にシワを寄せて笑い、すっかり大人になったな…と言われた彼も照れ臭そうに微笑んでた。


「ところでそちらの女性は?もしかして奥さん?」


ドキン、と胸が跳ねて直ぐに否定をしようと構えた。
だけど、彼は嬉しそうに笑って、そんな感じの人だと言った。


(び、微妙…)


曖昧な表現だけどその通り。
支配人さんも困惑気味で、そうか…と言ったきり沈黙した。


「名前を伺ってもいいですか?」


そう聞かれたからゴクンと息を飲んで頷いた。


「月野と申します。月野明里」


フルネームを教えると目を見開かれ、月野?と言ったまま黙った。
それから彼を見遣って成る程…と呟いた後、私に向き直ってこう言った。


「月野さんと仰ると、ひょっとしてご先祖様はこの地の方ではないですか?」


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