お見合い相手は、アノ声を知る人
元はと言えば、あんたが浮気をしたのが原因なんだ。
口先だけで彼女を弄んで、その結果の出来事だろう。

自分のことを棚に上げて彼女に不幸を背負わせるなよ。

しっかり反省して生き直せ。でないと奥さんからも見捨てられるぞ」


言い捨てるような彼に目を見開き、山根さんは困惑気味に言い返した。


「何なんだ、あんた。知った被りなことを言って…」


「待って下さい!言い合いなんて此処でしないで!」


慌てて二人の間に割って入った。
小早川さんがチッと舌を打ち、その音で胸が痛んだ。

彼にこんなことを言わせたのは自分だ。

二度と同じことを繰り返さないと思いながら、一人で不幸を背負うような気分に陥ってたから……。


「山根さん!」


ぎゅっと手を握って彼を見返した。

不器用で言葉の足りない上司だと思いながら、一緒に仕事をしてた時間が楽しかったことを思い出した。

あのまま上司と部下でいれば良かったんだ。

彼に口先だけの思いを告げられ、それに惹かれた自分は愚か過ぎた。

暗くて後ろめたい秘密の時間は濃厚だった。
人を好きになることは、こういうことなんだと教えられた。


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