お見合い相手は、アノ声を知る人
雑踏の中でショボくれてるかもしれない山根さんのことを少し思った。

だけど、それ以上に隣に居る彼のことを考えた。


この人は、どうしてこんなにも優しいんだ。
あの場で私のことを赦し、守ってくれるなんて思いがけなかった。


彼が山根さんに言ってくれた言葉は嬉しかった。
ハラハラしたけど、全部的を得てたと思うーー。



「明里」


強い言い方で名前を呼んだ彼を降り仰いだ。
落とされた視線が鋭くて、ズキッと痛みが走りそうだ。


「予定を変更する。今夜もお前は帰さない」


「えっ?」


驚くと立ち止まって私を見つめる。
ゴクッと唾を飲み込み、彼のことを凝視した。


「あんなどうしようもない男に触れさせたままなんて腹立たしい!さっさと忘れさせてやるから付いてこい!」


「えっ!?あの…」


「どうせジジイ達はそれを望んでるんだ。その希望を叶えてやろう」


「えっ、待って…!」


それじゃ貴方は自分は何も望んではないみたいに聞こえるんだけど!?


「待たない」


「一路さん!」


声を上げて名前を呼んだら、ようやく振り返ってくれた。

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