お見合い相手は、アノ声を知る人
その顔が想像以上に興奮してる感じで、落ち着いて…と願った。

でもーー。



「落ち着けるか!今朝からずっと残念に思ってて、それでも我慢してたのに煽られたんだから」


「あの…?」


私の肩を抱いたまま、彼は通路の端に避けた。
トンと背中に壁のタイルが当たり、その冷たさにドキンとした。


真っ直ぐ前から顔を寄せてくる彼に胸が鳴る。
目の前まで寄ってくると、それまでとは打って変わって、優しい声で囁いた。


「明里が欲しい。誰にも触れさせたくないと言っただろう」


息を飲むと彼の唇が重なる。
初めてキスした時みたいに頭の奥がジン…として、真っ白に変わってった。


軽く重ねた後で深くなった。
そのキスに応じながら、彼の服の袖を握りしめた。


(私も…この人以外に触れて欲しくない……)


そう思うと涙が溢れ落ちた。
さっきまでの切なさも悔しい気持ちも、全部忘れ去ってしまったーー。


雑踏の中でキスするなんて初めての経験だった。
だけど、それを見られても平気だと、何故か少しも照れ臭く感じなかったーーー。



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