お見合い相手は、アノ声を知る人
ぱっと見店内に逃げる場所はない。

市立美術館の中にある喫茶ルームにはトイレもなく、想像以上に人が集まってる。

後からやって来るお客さん達を店員が素気無く断る程度にいて、そんなことしなくても私が此処から立ち去ってあげたいのに…と恨めしくなる。



(……でも、逃げれないよね。私、無一文だもん)


着いた時にオーダーしたアイスティーの代金すらも支払えない。

それと言うのも祖父が何もかも全部自分が出すと言ったから。
人生最後のお願いだと手を合わせ、頼みを聞いてくれ…と言ったんだーーー。




『ジイちゃんの最後の願いだと思って聞いてくれ』


真剣な眼差しでいきなり何を言いだすのかと驚いた。
大袈だなぁと思いつつ耳を傾ければ、市立美術館で開催中の版画展に付き合って欲しいと願う。

昔、祖母が生きてた頃に二人で観に行ったことがあるとかで、冥土の土産話に持っていきたい…と言われた。



『……別にいいけど』


冥土の土産なんて縁起でもないと思うセリフと共に、二人で展覧会を観にやって来た。

昔を懐かしんで、若い頃に祖母が作った着物を身に付けて欲しいと頼むから袖を通した。


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