お見合い相手は、アノ声を知る人
「じゃあ明日ね」


「今夜は駄目なのか?」


「今夜は多分眠いからムリ。明日また読むね…」


言ってる側から大きな欠伸が出てしまった。
ハッとして祖父を見ると、口元がにやりと緩む。


顔が熱くなってきそうで急いで二階の部屋へ上がろうとした。
その私の足元を擦り抜け、マルコがまたしても部屋の前で待つ。


「…もう。マルコには敵わないな」


ドアを開けると尻尾を長く伸ばして入っていく。
今度はそれを見てもあの人のことを思い出さず、代わりにクスッと笑みが溢れた。



「明里?帰ったの?」


階下から母の声が聞こえ、ドアノブを握ったまま「うん」と答えた。


「ご飯は食べる?」


「うん、食べてから出勤する」


「じゃあ急いで降りて来ないと遅刻するわよ」


「はーい」


子供時代の頃のように間延びした返事をしてドアを閉めた。
実家へ帰ってから初めてだと気づき、何処か素直さを無くしてた自分を思い出した。


「やっぱりもう少しこの家で暮らしたいな」


そう呟いて服を着替え、手早くメイクをしてから下に降りる。


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